日々

インスタグラムに綴るにはなんかあれ

歯医者デートをしよう2

 


たぶん奥歯が痛い。

たぶん、というのも常時痛いというわけでもなく、其れは時々ふいに襲ってくるのである。口の中というものは自分ですらマジマジと見つめることもなく、ただ忘れられ、時たまツウンと痛みが生じているだけなのである。痛イ、と口にしても他人にはこれが伝わるまい。以前にも述べたことではあるが、坂口安吾は歯の痛みは自分以外の誰にも理解してもらえないと記したが、全く頷くばかりである。早くこの痛みから解放されたい、是非歯医者に行きたいという気持ちは往々にしてあるのだが、どうもあと一歩が踏み出せない。そんなときに、ふと“歯医者デート”のことが頭に浮かんだのである。

 

以前私は、歯医者デートをしよう、と記した。

 


私は、歯医者デートがしたかった。

しかし気がつけば、歯の痛い我が友はしれっと各々歯医者を予約し、治療し終え、何食わぬ顔で生活をしていたのであった。


私は、歯医者デートがしたかった。

医者の指示通りにあんぐりと口を開け、抵抗もできぬまま銀色の鋭い機械をキリキリと歯に当てられる。其の痛みに対して歯を食いしばることもできずに只耐えるのみ。嗚呼なんと滑稽な姿であるか。その姿は、人間の“弱み”そのものである。


私はその姿を見せることができるほどに、彼女らを心を許せる友、と認識しているのである。歯医者デートは恐らく、湯を共にする所謂“裸の付き合い”よりも奥の深い、友好関係を体現する付き合いであろう。


私は、歯医者デートがしたかった。

 

其れから数年が経ち、しみる珈琲を啜りながら私は思うのである。

 

 

・・・互いのみぢめな姿を、態々見せ合う必要などないのである。なんと愚かであったか。

今の私は歯医者デートなどは、すっかりしたくない。