憲法に“恋愛”についての項目を書き加えよ
「恋愛論」
これほどまでに興味を引きつつも照れ臭く手に取りづらい書のタイトルがあるだろうか。
坂口安吾は恋愛を語る。“恋愛とはいかなるものか、私はよく知らない。そのいかなるものであるかを、一生の文学に探しつづけているようなものなのだから。” という何とも粋な文章から語り始める。
このエッセイは読んでいてくすぐったくなる。
恋愛とはいかなるものか、もちろんこんな私には知る由もなく、一般的にどうして人々は好き合ったところで “付き合う” のだろうか、などと戯言をぬかしている毎日だ。そもそも恋愛というものは、義務教育で先生は教えてくれないし、憲法や教科書にも載っていない。恋愛の定義などもない。実に、曖昧すぎるものだと思う。私は恋愛というものを受け入れることはめっぽう苦手だが、興味はある。恋愛の感情とは何か。そもそも人間の感情を簡潔にまとめあげ、確実性のあるものにすることなど不可能なはずだ。私は今好きだと思っているこの生活だって、いつかはきっと飽きて情けなく嫌いになるかもしれない。永遠や絶対という言葉はなかなか使えないものだ。それなのに、ましてや恋愛などに一生を誓えるか。
しかし、
驚くべきことに、「恋愛論」には恋愛感情の “一般解” が書かれている。私は驚いた。人間の感情なんて計り知れないはずなのに、恋愛の感情の一般解を、坂口安吾は、こんな私でさえ納得させるような的を得たものを遺した。
とても くすぐったい。
これは、世の中に時々出回っている、さあみんな恋愛をしよう!人生を楽しもう!などという類の押し付けがましい呆れた書では決してない。ただ、素朴で純粋な言葉で溢れている。上手く表現できないが、読んで後悔することのない本だ。坂口安吾といえば、少し難しい文章構成をしがちなイメージがある人もいるかもしれないが、これは無意識のうちに自分の身体に言葉が入ってくるような、優しい文章だ。易しい、ではなく、優しいのだ。
たった10ページほどのエッセイであるが、初めて読んだ高校時代から、私はこれは日本に生きている皆全員が必読すべきだと思っている。大袈裟ではない。国語の教科書に載せるには少し照れくさいから、日本国憲法の一項目に追加してほしい。
とりあえず、一度でいいから読んでくれ。
くすぐったい気分になってくれ。
“ 恋愛は、人生の花であります。いかに退屈であろうとも、この外に花はない。”
最近知ったんですけど、iPhoneに初めから入っている「ibooks」というアプリのなかで坂口安吾のエッセイはほとんど無料でダウンロードして読めます。是非。